用語紹介
- 1.認知障害[情報処理障害]とその特徴
- (1)注意障害【注意機能はすべての認知機能の基盤】
- 「一つのことが続けられない」
- 「気が散りやすい」
- 「ミスが多い」
- 「同時に複数のことに注意が向けられない」
などの注意の「持続」「集中」「配分」が障害される。特に様々な情報を同時に処理したり、判断しながら処理することを必要とされる課題でミスが顕著に増大する。
- (2)記憶障害
- 「新しい知識が覚えられない」「受傷後にであった人の名前が覚えられない」というように意味記憶が障害される。
- 「さっき言ったことや昨日やったことが曖昧になる」というようにエピソード記憶が障害される。
- 「約束や予定をタイムリーに思い出せない」というように展望記憶が障害され、スケジュール管理が難しくなる。
- 習慣的な行動や、家に帰る道順などは手続き記憶として覚えることができる。
- 興味関心のあることは覚えられる。(注意を集中することで記銘しやすくなる、繰り返すことで貯蔵が確かになる)
- 受傷前に覚えた知識は比較的残っている。
- 想起できない場合に周囲がヒントを出したり、自分の書いたメモを見ると、必要な情報を取り出せることがある(手がかりがうまく使えない)。
- 記憶障害の程度や内容は人によって、また日によって、バラツキが大きい。
- (3)遂行機能障害
- 遂行機能とは、前頭葉にある人間のもっとも高次な機能で、自分を認識したり、目標を設定し、そのためのプランを立てたり、行動が目標に向かってうまく行われているかどうかをモニターしながら修正していくような機能である。
- 「仕事の優先順位がつけられない」
- 「行動の計画が立てられない」
- 「課題や仕事が正しいやり方で続けられず、途中で変わってしまう」
- 「手当たり次第にやって混乱する」
- 「効率のよい方法が選べない」
- 「仕上がりを気にしない」
などの行動の目標を決め、計画し、効率よく課題を解決することや、開始した行動をモニターし、コントロールしながら目的を達成することが困難になる。
- 自分の障害を認識できないために、現実離れした目標にこだわったり、補償行動をとろうとしなかったりする。
- (4)思考・判断の障害
- 「常識的な判断ができない」
- 「物事の因果関係が把握できない」
- 「勝手な思い込みで自分の考えを言い張る」
など、周囲の状況と照らし合わせたり様々な情報を統合して判断することや、思考を柔軟にめぐらすことが難しくなるので、場面や状況に応じた行動がとれなくなる。
- (5)知能低下
- 「学力が低下した」
- 「知っていたはずのことが出てこない」
- 「以前なら簡単に解けた問題がわからない」
など、知的なレベルが前よりも低下する。
- (6)コミュニケーションの障害
- 「言外の意味や言葉の裏を理解することが難しい」
- 「話の要点よりも言葉尻に反応してしまう」
- 「相手の気持ちを理解して話すことが難しいので一方的な話になってしまう」
- 「話をしているうちに、内容が本筋とズレてしまい、何を話しているか分からなくなる」
- 「話が唐突で、断片的なので何が言いたいか相手に伝わらない」
などのコミュニケーションの障害により、複数の会話場面で置き去りになったり、対人関係が難しくなる。
- (7)情報処理の容量と速度の低下
- 情報処理の容量が少なくなり処理の速度が低下するため、いくつかの情報を処理しようとするとすぐパニックになる。仕事上で問題が顕在化しやすい。
- 2.社会的行動障害とその特徴
- (1)依存症・退行
- 態度や言葉が子供っぽくなったり、すぐに親や周囲を頼るようになる。認知障害とは異なるが、認知機能が回復し、社会的な場面に参加するようになると改善してくる例も多く、時間をかけて成長がみられる。
- (2)感情コントロールの低下
- ささいなことで感情が爆発し、暴言を吐いたり暴力を振るうことが一番の問題となる。いらいらしている時にささいな一言に反応してキレる場合が多いが、注意されたり、自分が気にしていることを言われたりすることが引き金になりやすい。いったんキレると自分が何をしているのか分からなくなるが、興奮が収まるとケロッとして何事もなかったかのごとく、振る舞う場合も多く、周囲は唖然とさせられる。また、本人が暴言を吐いたり、暴力を振るったことをすっかり忘れている場合には、相手の傷ついた感情(許せないという思い)との間に食い違いが生じることになる。
- (3)欲求コントロールの低下
- 「欲しいと思うとがまんできない」と1日に何本もジュースを飲んだり、お菓子を1袋全部食べてしまったりする。お酒もタバコなども止められなくなったり、お金をあるだけ使ってしまったりする。自分がどれだけ飲んだか、いくら使ったかの記憶があいまいであるということもあるが、抑制がきかなくなっていると考えた方がよい。
抑制は性的な行動にも関係している。セクハラやストーカーまがいの性的な逸脱行動が押さえられず、社会問題となることがある。
- (4)対人技能拙劣
- 相手の気持ちや状況を思いやることが苦手になって、新しい友人関係を築くことが難しくなる。自分の一方的な思いを押しつけてしまって相手をうんざりさせたり、ささいなことで相手を非難したりするので、友人が離れていってしまう。
- (5)固執性
- ひとつのことを始めるとやめることができなくなったり、こだわったことを何度でも言ったりやったりする。特にこだわった行動は状況は変わっても容易に変えられない。窓を何度でも閉めて回ったり、ちょっとしたゴミでも気になって拾いまわったりなど、強迫的な行動が見られることもある。
- (6)意欲発動性の低下
- 自分から何かしようとしなくなり、周囲から促されない限りボーっとしている。重傷の場合には日常生活の洗面…整容衣服着脱、入浴などの行動すら自分からしようとしない。周囲で起きている事柄にも関心を示さなくなる。軽症の場合には目の前の簡単に出来ることはやれるが、意図的な努力を必要とする行動はなかなか出来なかったり、続けられない。
- (7)脱抑制
- 目の前の刺激に反応して行動してしまうことが見られる。たとえばパンが置いてあれば、子供のために用意したものであってもお構いなしに食べてしまったり、どこかに行こうとしても、たまたまパチンコ屋が目に入ればそのまま入ってしまったりする。何のためにという目的と、何をするかという行動が結びつかない。
- 3.その他
- (1)失語
- 話せない、意味のわからないことを言う、読めない、書けないなどの障害。他の人に意志を伝えたり、他の人が言ったことを理解したりすることが難しい。
- (2)失行
- 麻痺や失調、不随意運動などの運動障害はないのに、運動がきちんとできない。道具がうまく使えない、動作がぎこちない。
- (3)失認
- 物が見えているのにそれが何かわからない。感覚障害はないのに、見たり聞いたり触ってもそれが何かわからない。普段使っているものを見ても何かわからない。
- (4)半側空間無視
- 片側(左側が多い)にあるものを見落としやすい。片側にあるものに気づかずぶつかる。
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2003年12月発行シェイキング・ハンズ会報第5号
平成15年5月14日(水)
名古屋総合リハビリテーション福祉部主幹(臨床心理士)
阿部 順子先生(現: 岐阜医療科学大学 保健科学部 教授)
講演会資料より引用